これまでの記事で、SES企業の選び方や労働条件通知書のチェックポイントについて解説してきました。今回は、SESで働くうえで気になる「残業代」にフォーカスし、精算幅とみなし残業の仕組み、自分で確認する方法を整理します。
SESの残業代は「精算幅」と「みなし残業」を知らないと損をする
読者
SESって「月180時間までは残業代が出ない」って聞いたんですけど、本当ですか?
SESは客先の勤務時間に合わせて働くため、現場によって残業時間が大きく変わります。それなのに「精算幅」や「みなし残業」といった言葉がからみ合っていて、自分の残業代がどう決まっているのか分かりにくいのが実情です。この記事では、SESの残業代が決まる仕組みと、自分で確認する方法、出ないときの対処法までを順番に整理します。
SESの残業代を左右する2つの仕組み
SESの残業代を理解するうえで押さえておきたいのが、「精算幅」と「みなし残業(固定残業代)」の2つです。どちらも残業の話でよく出てくる言葉ですが、誰と誰の取り決めなのかがまったく違います。
| 精算幅 | みなし残業(固定残業代) | |
|---|---|---|
| 誰と誰の取り決め? | SES企業と客先(会社同士) | SES企業とあなた(雇用契約) |
| 何が決まる? | 客先に請求する金額(単価) | あなたの給与に含まれる残業代 |
| どこに書いてある? | 会社間の契約書・注文書 | 雇用契約書・労働条件通知書・就業規則 |
| 自分で見られる? | 見られないことが多い | 必ず確認できる |
つまり、あなたの残業代を決めているのは「みなし残業」を含む雇用契約のほうです。ここを混同すると、本来もらえるはずの残業代に気づけないことがあります。
仕組み①「精算幅」は会社同士の請求ルール
精算幅とは、SES企業が客先と結ぶ契約で決める「月の稼働時間の幅」のことです。よくあるのは「140〜180時間」のような設定で、この範囲に収まっていれば、客先がSES企業に支払う金額(単価)は変わりません。上限を超えれば超過分が追加で請求され、下限を下回れば差し引かれる、という仕組みです。
ここで大事なのは、精算幅はあくまで会社同士のお金のやり取りのルールだということです。社員であるあなたの残業代は、労働基準法と雇用契約にもとづいて決まります。原則として、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて働いた分には、25%以上の割増賃金が支払われなければなりません。精算幅の範囲内だからといって、残業代を払わなくていいことにはならないのです。
「180時間までは残業代なし」の正体
それでも「精算幅の上限までは残業代が出ない」と説明される会社があるのは、その分の残業代をみなし残業(固定残業代)として、あらかじめ給与に含めているケースがあるからです。たとえば月160時間が所定労働時間で、20時間分の固定残業代が毎月支払われていれば、180時間までは追加の残業代が出なくても計算は合います。
逆に、固定残業代の取り決めがないのに「精算幅内だから」という理由で残業代が出ていないなら、一度確認したほうがいい状態です。
仕組み②「みなし残業(固定残業代)」は定額の前払い
みなし残業(固定残業代)は、一定時間分の残業代を、実際の残業時間にかかわらず毎月定額で支払う仕組みです。よく「残業代込み」と言われますが、正しくは残業代の前払いです。そのため、決められた時間を超えて残業した分は、別途支払われる必要があります。
固定残業代が有効と認められるには、基本給と残業代の部分がはっきり区別されていることや、超えた分をきちんと精算していることなどが求められます。次のような点をチェックしてみてください。
✅ 適切に運用されているサイン
- 「固定残業代〇万円(〇時間分)」と金額と時間数が明記されている
- 基本給と固定残業代が分けて書かれている
- 固定時間を超えた月は、超過分が給与明細に追加されている
⚠️ 要注意のサイン
- 「基本給に残業代を含む」としか書かれていない
- 何時間分の残業代なのかが分からない
- どれだけ残業しても、給与明細の金額が毎月まったく変わらない
残業代の計算方法を具体例で確認
残業代は、「1時間あたりの賃金 × 残業時間 × 割増率」で計算します。1時間あたりの賃金は、月給(通勤手当・住宅手当など一部の手当を除く)を、1か月の平均所定労働時間で割って求めます。
| 働き方 | 割増率 |
|---|---|
| 法定労働時間を超えた残業 | 25%以上 |
| 月60時間を超えた残業 | 50%以上 |
| 深夜(22時〜翌5時)の労働 | 25%以上(残業と重なれば合計50%以上) |
| 法定休日の労働 | 35%以上 |
たとえば、1時間あたりの賃金が2,000円で、固定残業代が20時間分、実際の残業が30時間だった月を考えてみましょう。超過した10時間分について、10時間 × 2,000円 × 1.25 = 25,000円が、固定残業代とは別に支払われるのが正しい計算です。
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残業代が正しく支払われているかは、手元の書類と記録を照らし合わせれば確認できます。
- 雇用契約書・労働条件通知書 → 固定残業代の金額と時間数、超過分の扱いを確認する
- 就業規則・賃金規程 → 残業代の計算方法や、締め日・支払日を確認する
- 給与明細 → 固定残業代と、超過分の残業代が分けて記載されているかを見る
- 勤怠記録 → 自社に報告している勤務時間と、実際に客先で働いた時間にズレがないかを確かめる
労働条件通知書の見方は、SES企業の内定後に確認すべき労働条件通知書のチェックポイントでも詳しく解説しています。
読者
精算幅がいくつなのか知りたいときは、客先の人に聞けばいいんですか?
残業代が出ない・少ないときの対処法
確認してみて「やっぱりおかしい」と感じたら、次の順番で動くのがおすすめです。いきなり外部に相談するより、まずは社内で事実を確認するところから始めましょう。
✅ 対処の4ステップ
- ステップ1:自社の営業担当・管理責任者に相談する(客先ではなく自社が窓口)
- ステップ2:勤務時間の記録を残す(勤怠、入退館の記録、業務チャットの送信時刻など、自分が正当にアクセスできる範囲で)
- ステップ3:労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談する(無料で相談できる)
- ステップ4:弁護士に相談する(請求額が大きい場合や、会社が応じない場合)
なお、未払いの残業代を請求できる期間(時効)は、2020年4月以降に発生した分は3年です。退職後でも、この期間内であれば請求できます。
残業が多くなりやすい案件の特徴
同じSESでも、案件によって残業の量は大きく変わります。次のような特徴がある案件は、残業が増えやすい傾向があります。
⚠️ 残業が増えやすい案件
- 納期が迫っている、いわゆる「炎上案件」
- 商流が深く、自社が3次請け・4次請けなどの位置にいる案件
- 長期常駐の中で、担当範囲がなし崩し的に広がっている案件
商流の見極め方については、SES企業の選び方|入社前に確認すべきチェックポイントもあわせて参考にしてください。
SESの残業代に関するよくある質問
Q. 精算幅の下限を下回ったら、給料は減りますか?
精算幅の下限割れで減るのは、基本的に会社同士で精算する金額です。固定給の正社員であれば、月給がそのまま減らされるのは一般的ではありません。ただし、単価に連動して給与が決まる会社では影響することがあるので、賃金規程を確認しておきましょう。
Q. 固定残業時間より残業が少なかった月は、固定残業代が減らされますか?
固定残業代は、実際の残業が少なくても定額で支払われるのが原則です。残業が少ない月に固定残業代を差し引かれている場合は、会社に確認してみてください。
Q. 客先の担当者から直接「残業して」と言われたら?
SES(準委任契約)では、客先が直接残業を指示することは認められていません。その場で判断せず、自社の営業担当に相談しましょう。こうした状態が続く場合は、契約上の問題がある可能性もあります。
Q. 退職した後でも、未払いの残業代は請求できますか?
請求できます。2020年4月以降に発生した残業代の時効は3年なので、その期間内であれば退職後でも請求が可能です。勤務時間の記録は、退職前に整理しておくと安心です。
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まとめ
SESの残業代を決めているのは、会社同士の「精算幅」ではなく、あなたとの雇用契約(みなし残業を含む)です。法定労働時間を超えた分は、固定残業代でカバーされている時間を除き、割増賃金が支払われるのが原則です。まずは雇用契約書・給与明細・勤怠記録を照らし合わせ、気になる点があれば自社の営業担当に確認しましょう。入社前の条件確認については労働条件通知書のチェックポイント、客先とのやり取りについては客先面談で聞くべき逆質問もあわせて参考にしてみてください。

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